一生のうち、約80％が経験するといわれている国民病の腰痛
意外と重症化することは多くないんですよ
図1. 性別にみた有訴者率（人口千対）の上位5症状
厚生労働省 平成22年国民生活基礎調査
腰痛は初見で原因の分かるものと、分からないものがあります
非特異的腰痛・・・原因がはっきりとしない腰痛
特異的腰痛・・・・・椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など、原因が明らかなもの
What can the history and physical examination tell us about low back pain?
Deyo RA et al ：JAMA268.760-765，1992
見ても通り、ほとんどが原因のはっきりしない非特異的腰痛です
重篤な椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症はあわせても10％程度
特異的腰痛 腰椎椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは椎間板内の髄核（水色）が飛び出すことにより起こる
ヘルニアは何かが飛び出すことを意味し、腸が飛び出す鼡径ヘルニアもある
有病率は人口の約１％、好発年齢は20〜40代
以前は、機械的に神経が圧迫されて痛むと考えられてきましたが
髄核に炎症を起こす作用があることが分かってきました
Chemical radiculitis. Peng B et al.
Pain. 2007 Jan;127(1-2):11-6. Epub 2006 Sep 8.
spine:20(24):2613-25,1995
画像診断で椎間板ヘルニアが見つかっても痛まない方も多い
腰痛を伴うのは2～3％程度
通常2ヶ月程度でマクロファージにより、ヘルニアは自然吸収される
ヘルニア減少には個人差があるものの、大きなヘルニアほど
無くなりやすい（60～70％の割合で消失する）
愛知医科大学 医学部 学際的痛みセンター 牛田享宏部長
椎間板ヘルニアの約90％が自然治癒が期待できる
The natural history of sciatica associated with disc pathology.
A prospective study with clinical and independent radiologic follow-up.
Bush K et al. Spine (Phila Pa 1976). 1992 Oct;17(10):1205-12.
椎間板ヘルニアや脊柱間狭窄症に対する手術の短期成績は
保存療法よりわずかに優れているが、その差は時間の経過と共に
減少してゆく傾向にあり、長期成績は保存療法と変わらない
Surgery for low back pain: a review of the evidence for an American
Pain Society Clinical Practice Guideline.
（Chou R. et al, Spine, 2009）
2年後以降、手術の有無に関わらず、回復度に差は無い
ヘルニアは椎体後方、脊髄神経に向かって飛び出し痛みを作るので
前傾した時に痛みや痺れなどが起こるはずである
前傾や腰をかがめた姿勢が楽であれば、ヘルニアは考え難い
ヘルニアでは下肢伸展挙上テスト、SLRが陽性となる
手術はガイドラインに従った保存療法を2年間行っても効果がないか
激しい痛みが続く患者に限るべき
ヨーロッパ非特異的急性腰痛ガイドライン
1995 Volvo Award in clinical sciences. The diagnostic accuracy
of magnetic resonance imaging, work perception,
and psychosocial factors
in identifying symptomatic disc herniations.
椎間板ヘルニアは、スポーツ選手や20〜40歳代の男性に多いが
私もＭＲＩを撮ると椎間板は潰れ、ほとんど無いが腰痛も無い
慶應義塾大学の
松本守雄 医師らが調べたところ
腰に痛みがない人（130人）のうち80％に、椎間板変性があった
米国ナショナル･カイロ大学で行われた犬を使った動物実験で
犬の脊椎を動かして椎間孔を狭窄させて神経を圧迫させ、そのときの
神経の伝達速度の変化を観察、脊椎が脱臼するまで動かしましたが
神経の伝達速度には変化がなかったが、椎間孔から出ている脈管系の
循環障害が確認されたという（論文見つからず）
椎間孔から出ている組織は神経だけではなく、動脈、静脈、リンパなどがある
神経の占める割合は1/3くらいで、椎間孔を狭窄しても神経を
挟み込む様な事はない
脈管系は圧力に弱く、特に静脈は顕著に反応し、循環障害による神経組織の
酸素不足による浮腫などが発生すると考えられている
神経根を障害したヘルニアは約90％自然治癒が期待できるが
馬尾神経が障害されると約10％自然治癒が期待でず
馬尾神経症状が発生し、適切な治療が必要になってくる
馬尾神経症状
両足、お尻周りのしびれや痛み、力が入りにくくなる
便秘や尿が出にくくなる
会陰部の異常感覚
つまり、椎間板の変形は必ずしも腰痛に影響するとは言えない
これらの根拠から見ても、ヘルニアがあるからといって
早期に手術をするのは、ベネフィットが大きいとは言えない
脊柱管狭窄症 特異的腰痛
痛みと消炎鎮痛剤 NSAIDｓもご参照ください
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